銭湯は建物としても地域色の出やすいものではないかと思う。
私が銭湯に目覚めたのは関東にしばらく居たころだが、名古屋に戻りその違いに気づくようになった。
関東では東京的レイアウト、名古屋では名古屋的(関西的)レイアウトというスタイルがあるようだ。
当てはまらない場合や若干違う場合もあるが大体下図のような比較が成り立つと思う。
面積的には圧倒的に東京型のほうが大きい。 名古屋の銭湯はどこも規模は東京型より小じんまりしている。
入り口は東京型が男女共通で1個なのに対し、名古屋銭湯の場合は男女別々にあるが、土間で合流し
番台前の引き戸で再び別れる。
名古屋銭湯を特徴づける一つの部分は脱衣場と浴室の中間に位置する流しのあるタイルのスペース。
東京型の場合、脱衣場と浴室はガラス貼りで引き戸で隣接しているが、名古屋銭湯の場合はここで体を拭き、
濡れたまま脱衣場に行くことがないような緩衝地帯となっている。 これがために名古屋の利用客は浴室で
水気を拭き取る習慣がない気がする。 東京型の場合はこのスペースがない為、浴室内でしっかり拭き取って
脱衣場に戻ることになる。
次に壁画であるが、東京型の場合、浴槽背後の壁面全体に大抵は富士山のペンキ絵が描かれる。
東京型銭湯の一番の特徴だろう。 名古屋ではペンキ絵は皆無である。そのかわりペンキではなく、細かいタイルで
表現されたモザイクタイル絵の富士山や山渓画が描かれる。 面積は東京型よりかなり小さい場合が多い。
代わりに脱衣場と、緩衝地帯の上部にも脱衣場側にモザイクタイル絵が施されている場合が多い。
瀬戸物の町が近いためか、タイルの装飾の凝ったところがまだ残っている。 名古屋銭湯の楽しみの一つは
ずばりタイルワークではないかと思う。
次に浴槽のレイアウト。 名古屋では浴室の中央にいわゆるセンター浴槽が配置される。 これは大阪的とも
いわれるが、この位置にあるため、流し湯として浴槽からお湯を汲んで利用する客は少なくない。
古い銭湯ではカランの出がよくない場合もあるのでこうした光景が良くみられる。
東京型ではそれは難しい。
名古屋銭湯では細かい浴槽がいくつもあるのに対して、東京型は浴槽の数や種類はすくないが浴槽の大きさが
比ではない。 種類をとるか、広さを取るか、といった着目もできるかもしれない。
天井の形状も大きく異なり、東京型銭湯では二段の高天井で、上段にある湯気抜き窓から蒸気が抜けるのに対して、
名古屋銭湯では四角錘型の天井で中央にある正方形の湯気抜き穴がそれに代わる。 天井は東京型ほど広くはないが
蒸気の密度が高く、暖かな浴室が保たれやすい。
東京型銭湯ではサウナと電気湯が少ない気がする。 その代わり庭がしっかりしており、池に鯉が泳いでいたりするのは
東京型銭湯の特徴だろう。 名古屋銭湯では庭は殆ど消滅しているが、残っていれば位置は浴室と脱衣場の間にある。
中庭だ。 東京型の場合は外側に配置される。縁側もありゆっくり庭をながめながらというところがうらやましい。
コミュニケーションの図られる場所もちょっと違う気がする。名古屋の銭湯場合、雑談に花がさくのは脱衣場のことが多く、
テーブルやTVが置かれていることが多い。 東京型では浴室で会話が弾んでいることが多いのではないだろうか。
東京型ではテーブルやTVのある率が名古屋銭湯より低い。 おおざっぱな言い方をすると、名古屋では浴室が静、脱衣場が動
だとすれば東京型では浴室が動、脱衣場が静を楽しむ場所のような印象がある。
これもレイアウトが生み出す習慣の差かもしれない。
入り口は東京型は唐破風や破風で寺社を思わせる豪華絢爛な造りだ。ここをくぐり極楽浄土をイメージさせるのだという。
名古屋銭湯では破風はみられない。名古屋銭湯は建物自体がより実用的で地味だ。
だが名古屋銭湯の主役は「建物」ではなく、そこにいる人たちや装備品などのかもしだす生活色なのだと私は思っている。
そういえば東京型銭湯は極楽浄土をイメージさせる造りというだけあって生活色は薄い。
あなたはどんな地域色を銭湯に見出すことができるだろうか。 こうした銭湯の地域色を楽しむのも銭湯めぐりの
一つの楽しみ方である。 こんな違いもあるのでは、と気づかれた方、是非教えてください。